1. はじめに
2024年4月から「医師の働き方改革」が始まります。この改革は、医師の長時間労働を是正し、健康を守るとともに、質の高い医療を持続的に提供することを目的としています。
私たち医療従事者にとって、この改革は大きな変化をもたらします。本資料では、新制度の概要と具体的な内容について、わかりやすく解説します。
2. 医師の働き方改革の背景
現在、多くの医師が長時間労働を強いられています。日本医師会の調査によると、「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」医師の割合が3.6%にもなります。この状況を改善し、医師の健康を守るとともに、安全で質の高い医療を提供し続けるために、この改革が必要となりました。
3. 改革の主な内容
3.1 時間外・休日労働の上限規制
医師の時間外・休日労働時間に上限が設定されます。上限時間は、適用される水準によって異なります。
水準 | 年間の上限時間 | 対象となる医療機関・医師 |
---|---|---|
A水準 | 960時間 | 一般の医療機関で働く医師 |
B水準 | 1,860時間 | 地域医療を守るために長時間労働が必要な医療機関の医師 |
連携B水準 | 1,860時間 | 複数の医療機関で勤務する医師 |
C-1水準 | 1,860時間 | 初期研修医・専攻医 |
C-2水準 | 1,860時間 | 高度な技能を習得中の医師 |
※月100時間未満の上限もあります(面接指導の実施による例外あり)。
3.2 追加的健康確保措置
長時間労働を行う医師の健康を守るため、以下の措置が義務付けられます。
- 面接指導:月の時間外・休日労働が100時間以上となる医師に対して、事前に面接指導を実施します。
- 勤務間インターバル:連続勤務時間制限と勤務間インターバル規制(または代償休息)を設けます。
4. 具体的な変更点と注意事項
4.1 宿日直許可
宿日直業務について、労働基準監督署長の許可を得ると、その時間は労働時間にカウントされません。ただし、許可を得るには厳しい基準があります。
宿日直許可の基準(一部):
- 通常の勤務時間の拘束から完全に解放されていること
- 特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務に限ること
- 宿直の場合、十分な睡眠が取れること
4.2 副業・兼業の扱い
副業・兼業先での労働時間は、原則として主たる勤務先(本務先)に自己申告し、管理することになります。複数の医療機関で働く場合は、労働時間の合計が上限を超えないよう注意が必要です。
4.3 自己研鑽の扱い
自己研鑽の時間が労働時間に該当するかどうかは、以下の基準で判断されます:
- 所定労働時間内の研鑽:原則として労働時間
- 所定労働時間外の研鑽:以下の条件を満たせば労働時間外
- 本来の業務と直接の関連性がない
- 上司の明示・黙示の指示によらない
5. 医療機関での取り組み事例
多くの医療機関が、この改革に向けて様々な取り組みを始めています。以下に、いくつかの事例を紹介します。
5.1 ICTを活用した勤怠管理システムの導入
事例:社会医療法人ペガサス馬場記念病院
当直医用にスマートフォンを用意し、Beaconを院内各所に設置しました。これにより、医師の滞在時間を自動的に把握し、労働時間を正確に記録できるようになりました。
5.2 中央システムでの勤怠管理への移行
事例:慶應義塾大学病院
従来の手書きの勤務管理日誌をWEB入力に変更しました。これにより、勤務管理の省力化や精度の向上を実現しました。
6. まとめ
医師の働き方改革は、私たち医療従事者にとって大きな変化をもたらします。しかし、この改革は医師の健康を守り、より良い医療を提供するために必要不可欠なものです。
各医療機関で具体的な取り組みを進めるとともに、私たち一人一人が自身の働き方を見直し、この改革に積極的に取り組んでいく必要があります。
7. 参考資料・ツール
医師の働き方改革について、さらに詳しく知りたい方は、上記の資料やツールをご参照ください。また、所属する医療機関の人事部門や労務管理担当者にも相談することをおすすめします。
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